保育・文化セミナー「こどもとつくる平和」レポート

こどものとも社により毎年行われている保育・文化セミナー。今年は8月4日に開催されました。今回のテーマは「こどもとつくる平和」。そもそも平和ってなんでしょう? 大人は何をこどもに伝えられるでしょう? アーサー・ビナードさん、MAYA MAXXさん、廣田喜紀さんを講師に迎え平和について考えました。

まずはトップバッターのアーサー・ビナードさんによる「『キンコンカンせんそう』のはじまり! はじまり! 」。アーサーさんが日本語訳をした絵本『キンコンカンせんそう』を読み解きながら平和について彼ならではの視点でお話ししてくれました。 この絵本はイタリア人のジャンニ・ロダーリが童話として書き、フランス人画家のペフが絵本にし、アメリカ人のアーサーさんが日本語に訳すという珍しい絵本です。アーサーさんに言わせるとこれこそ国際化。確かにそうかも。

『キンコンカンせんそう』の中では「戦争が勃発する」のではなく「平和が勃発する」のです。聞きなれない言い回しですがお話を聞いて納得。この言葉に作者のロダーリさんが伝えたいことの全てが詰まっています。私たちは「戦争が勃発する」という言い方をしますがそれはおかしいんですって。戦争は自然現象のように突然起こるものではなく、しっかり準備をして、国家同士が「いつ戦争しようか?」なんて話し合い、なんだか丁度いいような理由をつけて始めるのが戦争なんですね。「戦争は勃発しないけど平和は勃発しうる」ってアーサーさん。では平和勃発の条件とはなんでしょう? それは全ての人が戦争とは何かを考え、「戦争が勃発する」なんて言葉の裏に隠されたものに気づくこと。 言ってしまえば日本だって戦争中じゃないかもしれないけれど、戦争準備中の国。そこに気づけるかどうかが平和勃発への第一歩なんですね。

キンコンカンせんそう

ジャンニ・ロダーリ作 / ペフ絵 / アーサー・ビナード訳

アーサー・ビナード

1967年米国ミシガン州に生まれる。コルゲート大学英文学部卒業。1990年に来日。詩集「釣り上げては」(思潮社)で中原中也賞、「日本語ぽこりぽこり」(小学館)で講談社エッセイ賞、「ここが家だ、ーベン・シャーンの第五福竜丸ー」(集英社)で日本絵本賞、「ドームがたり」(玉川大学出版部)で2018年の日本絵本賞、他に「ダンディライオン」(福音館書店)「キンコンカンせんそう」(講談社)他


次の話し手はMAYA MAXXさん。テーマは「ぱんだちゃんの幸せ、さるの夢」です。 福音館書店から今年新しく出版された『ぱんだちゃん』と『さるがいっぴき』。2冊の絵本に込められたMAYAさんの思いをお話ししてくれました。

「生きることは食べること」。食べられるということは人を落ち着かせ、安心させ、人を作っていく。まずはどんな子どもでもお腹いっぱい食べているということが食育の第一歩。体にいいものを食べさせるとかなんてのはその次の段階なんですね。『ぱんだちゃん』に出てくるぱんだちゃんはひたすら食べて、うんちして、最後はお母さんに寄り添って幸せそう。 『さるがいっぴき』も食べるということがテーマ。さるもぱんだちゃんみたいにひたすら食べるものを探しては見つけての繰り返しをしています。2冊の絵本で一貫して伝えていることは食べるという基本的なこと。そしてその基本をしている中で突然ふっと現れたまた別の幸せ。それが愛だ、とMAYAさん。いっぴきのさるが最後は2ひきになります。きっとこれからは2ひきで「生きること」をするのでしょうね。

ものが溢れている現代では大人でも「生きることは食べること」を意識している人は少ないかもしれません。けれどそれをこどもに伝えていくのは大人の役目です。 こどもは大人より本当のことがわかるんだよとMAYAさんは言います。言葉だけではなくもっとその奥にあるものを読み取る力がこどもには備わっています。つまり伝える側の大人が伝えようとしていることをちゃんと信じている必要があるんですね。自分で思っていないことを言っても伝わるはずありません。当たり前のことだけど意外と難しいことなのかもしれません。「ちゃんとしなくていいんだよ。自分が思うようにいればいいんだよ。多少人に迷惑をかけていたとしてもみんな死ぬから。と思えるのが57歳なんだよね。」ってMAYAさん。信念を持ってさえいれば多少緩やかに自分が思うようにいた方がきっと素直に人に何かを伝えることができるのかもしれませんね。 最後20分ほどで大きなキャンバスに描き上げたさるはろばのこで見ることができます。

さるがいっぴき

MAYA MAXX 作・絵

MAYA MAXX

1961年、愛媛県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。1993年に初個展「COMING AND GOING」を行う。以降毎年個展を開催。CDジャケット、CMなどへのイラスト提供、「真剣10代しゃべり場」「ポンキッキーズ」へのテレビ出演など幅広く活動。「しろねこしろちゃん」「らっこちゃん」「ぱんだちゃん」(福音館書店)「トンちゃんってそういうネコ」(KADOKAWA)「ねこどんなかお」(講談社)


次は廣田喜紀さんによる「ゴリラのこころちゃんとこどもたち」。 廣田さんは少し変わった切り口で日々こどもたちと関わっています。その様子をVTRを交えながら紹介してくれました。今回は「アフリカ」がテーマ。廣田さんはなぜアフリカを保育につなげようと思ったのでしょう? 日常のふとしたことをきっかけにアフリカの文化やその土地に住む人たちの生活を知り、保育に取り入れられるかもしれないと考えたそうです。 廣田さんはアフリカの動物や部族の生活、楽器などを保育に取り入れ、狩猟ごっこや民族楽器を作ったりして遊びながらこどもたちに大切なことを伝えています。 ごっこ遊びを通してこどもたちは普段当たり前にごはんを食べられることの大切さや自分たちが他の生き物に生かされているということを学んでいきます。

ぬいぐるみのゴリラのこころちゃんはアフリカからやってきました。お父さんとお母さんは密猟者によって殺されてしまいました。こどもたちがこころちゃんのために何ができるかを考えて行動している様子が印象的でした。こころちゃんが保育園にやってきた時にまずこどもたちがしたのは積み木でお父さんとお母さんを作ってあげること。こころちゃんが積み木のお父さんとお母さんに会えたとき「あ、こころちゃん、笑ったね!」ってこどもたち。身近なものを使ってこどもたちと同じ目線で話し、本気で遊び、大切なことを伝えていく廣田さん。きっとこの経験を通してこどもたちは無意識にいろんなことを学び、大人になってから経験したことの大切さに気づくんだろうな。

最後は樋口正春さんを進行役に講師の皆さんでのシンポジウム。アーサーさんとMAYAさんの掛け合いに会場は大笑い。そんな笑いが絶えない平和な空気の中セミナーは終了していきました。

廣田喜紀

パン職人見習いを経て20003年に保育士に。2009年より「八日市冒険遊び場」に世話人として関わり、児童公園を改造したり、外遊びのイベントを開催している。2016年からは東近江市のスポーツ推進委員に。現在上記の活動を続けながら、実家の農業を手伝い、忙しくも楽しく過ごしている。

Konomi Horiuchi

庭ビルの中のあちこちに出没します。ある時は2階でおもちゃを売っていたり、ある時は3階で箱を作っていたり。絵本のおもしろさに引き込まれこつこつ集め中。