さつきちゃんの育児日記 Day 10

小さなボディビルダー 筋トレの日々

娘が生まれて、10日経った。ふにゃふにゃしていて、ずっと抱いていたくなる。自立とは程遠い姿で、これから色々できるようになるというイメージすら湧かない。彼女は、いま何をどう感じているんだろう。生まれたばかりの人がどういう状態にあるのかを思い巡らす。

お腹の中にいるときに、娘が何をしていたのかは、全然わからないけど、いろいろ研究されているみたい。実は、胎内にいるときから、彼女らは指をしゃぶったり、呼吸の練習をしたり、しゃっくりしたり、いろいろな運動をしているらしい。そして胎外へ出たとたんに羊水という水中から空気中の世界へ生まれ出て、ドッと全身に重力がかかる。別世界だろうなあ。

彼女らにしてみると「あれ?!おも〜い、練習してたのにうまく動けやしないぞ」みたいなことか。だから彼女らは日夜、原始反射や粗大運動をして、筋肉を鍛えなおしているのだ。重力に逆らって、自分の身体の筋肉を動かしている。生まれたばかりの健気なボディビルダー。体幹を支える筋力すらない状態から、自分の意思で体を作り直す。我が家でいまもっとも努力してる人だ。

首を寝違えて起き上がれなくなったことがある。首が地面に沈んでいく感じで、うんともすんとも身体が動かない。頭が持ち上げられない、右も左も向くことができないと、息が詰まるほどの恐ろしさを感じる。身体が未発達な乳児は、動きたければ、体全体を鍛え直さないと動けない。そうみると、小さな娘のひた向きな努力と意志に「生きる」ってことへの敬意を感じてしまう。

さつきちゃんの育児日記 Day 10は庭しんぶん 002号に掲載されています。

Susumu Fujita

20代から庭とこどもと本にとりつかれ、いまだその間を行ったり来たりしている。学生の時は旅人に憧れながらも、卒業後、土から離れられない農民になり、鶏と豚と野菜の中で過ごす。その後、札幌に戻り、絵本屋になる。庭プレス、ひげ文庫主催。